マイコプラズマ感染症

咳を主症状とし、学童期以降の細菌性肺炎の原因としては最多とされています。肺炎にかかっている間も比較的元気に過ごせることが多いので、英語では「walking pneumonia(歩き回れる肺炎)」とも呼ばれます。

平成2324年にかけて日本中で大流行したのでこの病名をお聞きになった方、あるいはご自身が罹られた、という方も多いかもしれません。

病原体:「肺炎マイコプラズマ」という細菌による感染症です。一般的に処方されることが多いペニシリン系やセフェム系の抗菌薬は無効で、マクロライド系やテトラサイクリン系、あるいはニューキノロン系の抗菌薬しか効果がありません。

潜伏期間 主に 2-3 週間(1-4 週間)であり、他の呼吸器感染症に比べると長いです。

感染経路(発生時期):主に飛沫感染ですが、接触感染もあり得ます。家族内感染を頻繁に認めます。一度罹っても終生免疫は獲得されないので、再感染も多くみられます。冬にやや多い傾向がありますが、一年中みられます。

感染期間 症状のある間がピークですが、保菌は数週-数か月間持続します。

症状 咳、発熱、頭痛などのかぜ症状がゆっくり進行することが多いです。とくに咳は徐々に激しくなります。最初は乾いた咳から始まり、次第に痰の絡んだ、湿った重たい咳に変化することが典型的です。喘息のようにゼーゼーいうこともあります。鼻汁はあまり派手ではないことが多いですが、乳児ではしばしば認めます。発熱は高熱のこともあれば、微熱、ないしは発熱を殆ど認めない場合もあります。

発疹などを伴うこともあり、重症例では胸水がたまり呼吸障害が強くなる例もあります。

但し、マイコプラズマ感染症に罹ると必ず肺炎になる訳ではなく、罹った人の10-20%程度が肺炎になると言われています。残りの80%以上の人では「気管支炎」や、あるいは咳が強めの「カゼ」で済んでしまい、医療機関を受診せず、自然に治ってしまうことも珍しくありません。但しこの場合も他者への感染力はあり、家庭内や保育施設・学校、職場などで感染源となる可能性があります(歩き回れてしまう分、より多くの人に感染させるかもしれません)。

合併症として、中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群(感染症に関連して薬剤の副作用が重篤になってしまう疾患)、などが報告されています。

好発年齢 通常 5 歳以後で、 10-15 歳くらいに多いのですが、成人もしばしば罹患します。乳児の方が軽く、年長児や成人の方が典型的な肺炎となることが多いとされています。

診断法:他の細菌感染症と同様、「培養検査」が最も信頼性の高い検査ですが、マイコプラズマの培養は一般の施設ではなかなか難しく時間もかかるので、通常の診療において用いられることはほとんどありません。代わりに血液での抗体検査やのどの粘膜を擦り取った検体でのDNA 検査、抗原検査が行われますが、迅速性と信頼性の両方を満たす万能の検査はなく、マイコプラズマ感染を確定するのはしばしば困難です。特に、血液での迅速抗体検査は、感染が起こった時期から数か月近く陽性が持続する場合があり解釈に注意が必要です。

治療法:前述の抗菌薬を使用します。病状の早期軽快と保菌期間の短縮や、他者への感染力を減らす効果が期待できます。近年、これまで効果のあったマクロライド系の抗菌薬の効果が乏しい「耐性菌」が増えていることが問題視されています。耐性菌が疑われる場合はテトラサイクリン系(処方できる年齢に制限あり)やニューキノロン系の抗菌薬を使います。重症肺炎の場合はステロイド剤の併用が必要なこともあります。

予防法 飛沫感染としての一般的な予防法を励行します。

登校(園)基準:症状が改善し、全身状態が良くなれば登校(園)可能です。但し、咳が残っている間は可能な年齢ならマスクを着用しましょう。