腸管出血性大腸菌感染症(O-157など)

大腸菌の中でも、「ベロ毒素」という毒素を産生する「腸管出血性大腸菌」による感染症です。特に「O-157」という型のベロ毒素を作る菌が有名ですが、その他にもいくつか種類があります。

この菌が腸管の中に入っても全く症状のない人がいる一方、ひどい腹痛や血便の症状が出る人まで様々です。感染者の6-7%が「溶血性尿毒症症候群」という重症の腎臓障害を伴う合併症や、痙攣や意識障害を伴う「脳症」を合併するとされ、時には死に至ることもあります。日本でも海外でも、しばしばこの菌が原因の食中毒が集団発生し、社会的な問題ともなってきました。日本でのこれまでの大規模な集団発生としては、1996年、大阪・堺市で学校給食を原因とし児童を中心に数千人規模で起こったもの、2011 年の焼き肉チェーン店での生レバー・ユッケ喫食によるもの、2012 年の市販の漬物によるもの、などが皆さんの記憶にもあることと思います。残念なことに、たくさんの死亡例も出ています。

病原体:腸管出血性大腸菌(O157などのベロ毒素を産生する大腸菌)。熱には弱いのですが、低温条件に強く、水の中では長期間生存します。ほんの少量の菌が体内に入っただけでも感染し、腸管内で増殖後に発病します。

潜伏期間:ほとんどの大腸菌が主に 10 時間-6 日、O1573-4 日(1-8 日)のことが多いです。

感染期間:便中に菌が排泄されている間は他者に感染させる可能性があります。

感染経路(発生時期):生肉などの飲食物からの糞口(経口)感染や、あるいは接触感染で感染します。少ない菌量(100 個程度)でも感染します。夏季に多発する傾向があります。

症状: 無症状(無症候保菌)の場合もありますが、典型的な症状としては、水様下痢便、腹痛、血便です。なお、尿量が少なくなったり、皮膚の出血斑や粘膜からの出血(鼻血など)がある時、意識障害がある時は、「溶血性尿毒症症候群」という生死に関わる合併症の可能性が高いので、大至急医療機関を受診して下さい。特に腹痛と血便がひどいときはこの合併症のリスクが高いと言われています。入院で監視するのが安全です。

好発年齢: 患者の約80%15 歳以下で発症するとされています。同じものを同じ場所で食べても、大人は感染・発症せず、子どもだけが発症することは頻繁に起きています。小児と高齢者で重症化しやすいです。

診断法:基本は便の細菌培養検査です。その他、便中に毒素の遺伝子があるかどうかや、血液中の毒素に対する抗体検査なども組み合わせて診断します。

治療法:下痢、腹痛、脱水に対しては適切な経口での水分補給、あるいは点滴による補液などを行います。下痢止め薬の使用は毒素排泄を阻害する可能性があるので使用してはいけません(「整腸剤」は使用できます)。抗菌薬は時に症状を悪化させる可能性も指摘されており、海外では慎重に使うよう勧める専門家も多いですが、日本では個々の症例に応じて対応することが多いです。

予防法:手洗いの励行、消毒(トイレ等)、及び食品をよく洗い、しっかり加熱することが大切です。特に小児では生肉・生レバーを初めとして、加熱不十分な食肉の摂取は(肉の種類を問わず)絶対に避けて下さい。肉を食べさせる場合は、中まで火が通り肉汁が透き通るまで調理しましょう。75℃以上で1分間加熱すれば、病原性大腸菌だけでなく、腸炎の原因になるその他の菌も死滅します。また調理を担当する人は、加熱前の生肉などを調理した後に必ず手を良く洗いましょう。そして、生肉などの調理に使用したまな板や包丁は、そのまま生で食べる食材(野菜など)の調理に使用しないようにすること。生肉調理の際に使用した箸は、食べるときにそのまま使用してはいけません。

登校(園)基準:有症状者の場合には、医師において感染のおそれがないと認められるまで出席停止とします。無症状保菌者の場合には、トイレでの排泄習慣が確立している5 歳以上の小児は出席停止の必要はありません。5 歳未満の小児では2 回以上連続で便培養が陰性になれば登校(園)してよい、とされています。手洗い等の一般的な予防法をしっかり行えば、二次感染は十分に防止できます。